末永ブログ
これからの人事制度のつくり方
2020年10月23日
今までの人事制度から次の経営ステージに進むために人事制度を変えなけ
ればいけないタイミングです。人事は経営の質を高めるために先行して組
み立てるものです。人事制度を変えれば社員の動きはその方向に動くとい
うのが私の経験知です。社員は、自分の評価や処遇がこうなるという方向
性を示されたら、そちらに動くのは当然のことだからです。
最近の人事は、メンバーシップ型、ジョブ型という仕組みが提起されてい
ます。この二つのどちらかにするという議論ではなく、人事は経営の中に
存在するものですから、その経営に適合し、かつ、その経営で働く社員を
動機づけするものである必要があります。まず、経営の目指す方向性が何
であるかが大前提です。
経営の目指す方向性とは、経営ビジョン、ミッション、経営理念、経営計
画です。これらと人事制度の関係性が重要です。これと関係性のない人事
制度をつくることはないだろうと思う方もありますが、そんなことはあり
ません。人事制度が独り歩きしている経営も良く見ます。組織の当事者に
その認識がないのです。
例えば、これから「成果」を軸にした人事にしたいと言いながら、なぜ
「成果」を中心にした人事にするのかが一応書いてあるのですが、人事を
引っ張るものとしては極めて弱くて、人事のトレンドに乗っているに過ぎ
ないのです。だから、「成果」の内容についても部門によるチグハグを起
こしています。
これは、「成果」という人事制度の核について、ビジョンやミッションや
経営理念との関係を言語化できていないからです。言語化というのは、文
字化ではなく、言語にするための討議を深掘りしていないということで
す。つまり人事制度を変えようとしている経営層が、「成果」のとらえ方
について納得感に至るような肚落ちをしていないのです。組織内にセンス
メーキングする以前の段階です。
これは人事制度の核に成果を取り入れる場合ということを代表的に取り上
げましたが、このようなことが人事制度の組み立ての至る所で生じること
を想定しておく必要があります。
さて、これからの人事は、組織と人の関係の在り方が重要になります。組
織という集団と一人ひとりがその場で活動するという意味について問い直
しが始まっています。というよりも、それがこれからの時代の経営の根幹
です。
それは、組織の在り方をどう考えるかというより前に一人ひとりの存在の
とらえ方、つまり、人間観から考えなければいけません。殆どの企業が人
材育成と言います。私もそのように言って来ています。
要は、その人材の観方です。人材が全てだから育てるというのですが、そ
の思想と社員のモチベーションに大きなギャップが生じています。社員と
いう存在について、一人の人間としてリスペクトするという思想が実際の
ところは欠けているように思います。つまり、「部下」という文字のよう
に自分より下に位置するような観方では社員を動機づけられない時代で
す。
人事制度の組み立てにあたっては、この人間観を前提にした社員をどのよ
うに観るかということが制度づくりに大切です。例えば、人事評価でこれ
までの上司による部下を評価することについても、それだけでは評価の対
象の周りに起こっていることが実際には見えてこないということがありま
す。その垂直評価の観方だけでは、上司と部下の関係性が見えてこないと
いう課題があります。だから、例えば、多面評価(360度評価)をいれて
多角度から関係性を見るという仕組み論に直ぐなります。
しかし、よく考えれば、評価の仕組み論よりも大切なのは、社員同士も社
員と管理者も同じ理念の組織で働く人間としてお互いにパートナーという
存在という見方をすれば、評価の在り方が垂直的な点も必要ですが、より
お互いがお互いを観る眼をもって、お互いにとってより良い存在であろう
という動きは当然に必要なのです。そのためには多面的な評価をお互いに
行ってお互いの改善に展開していく仕組みが、むしろ必要だという議論に
なります。
垂直評価をカバーするための多面評価ではなく、多面評価自体が社員相互
間を認め合うために必要だということになるのです。
人事制度は最終的にはどのような仕組みにするかという仕組み論になりま
すが、それより以前にそれを支える人間観、ひいてはこれからの社員観を
どう考えるかという議論と深くつながっています。つまり、この基点から
制度を考えたほうがこれからの経営環境に適合するということです。
このように考えれば、これからの人事は創造的であり組み立てることが楽
しくなります。人事にはトレンドの動きがあります。どうしてもそのトレ
ンドに乗る傾向にありますが、よく考えれば、質の高い経営ほど人事制度
に他社にはない工夫があります。それは工夫を産み出したというよりも、
こういう経営をしたいという強い思いがそうさせたということができま
す。これからは、その根幹が、組織と人の関係についての観方にあると考
えます。